第 2 回 秋田県大館市の昔ばなし 『古屋のもり』 |
|
|
皆様 ご機嫌 いかがでしょうか。 長七郎です。 |
さて 昨今は凶悪犯罪、衣食住などの偽証問題、そして政官財の癒着などといろいろ憂慮される世の中ですね。 |
加えて昨年の終わりには、前防衛事務次官の守屋夫妻が収賄罪で逮捕されるという事件もありました。我々の血税を食いものにしていたのですね。 |
さて今回は、世の中で一番恐ろしい『古屋のもり』というお話です。悪者たちがいったいどういう結末を迎えるか。 |
それでは、昔話のはじまり、はじまり〜 |
|
昔、あるところに、じさまと、ばさまがおりました。 |
大きな百姓であったけれど、何としたことか家族みんな が死んでしまい、古びた家に、じさまとばさまと、あと馬がたった一匹、ポツンと残されてしまいました。 |
ぽそぽそと、雨のふる夜でした。 |
「こんげな晩こそ仕事にいい」
と馬泥棒がしのんできました。そして、じさまとばさまがねいるのを待つべと、馬小屋の屋根にしのんでいるうちに、つい待ちくたびれて、ねいってしまいました。 |
そこへこんどは山の狼が腹をすかしてやってきました。 |
なんとも腹がすいたが、馬でもとってくうべと、そうっとなかのようすをうかがいました。
|
じさまとばさまは、そんなこととはしりません。雨だれの音をききながら、いろりのはたにうずくまっていました。
「なあ、じさまや、こんげな晩には山の狼も腹すかして、馬コとりにくるべな、おっかねー。」 |
するとじさまがでかい声でいいました。 |
「だあれえ、山の狼なんぞ何がおっかないって、世の中で唐土の虎よりおっかねえのは古屋のもりだ。あや、そういううちにももりが来たようだな。」 |
そういってじさまは首をのばし、屋根からおちる雨の雫をながめました。
「こら大変だ、おれよりつよいもりとかいうもんがやってきたというぞ。」 |
狼はふるえあがって、にげだそうとしました。ところがちょうどその時です。屋根の上で眠りこけていた馬泥棒がどさっと狼の背中へころげおちました。 |
さあ狼はおどろいたの、おどろかないの、古屋のもりが背中にとりついたとばかり、無我夢中でかけだしました。泥棒は泥棒で、ねぼけ眼に狼を馬とまちがえ、振りおとされては大変だとしっかり耳にしがみついていました。 |
こうして、めちゃくちゃに走っているうちに、しらじらと夜が明けてきました。すると山おくの木の上で猿が、
「あれえ、おかしいよ、おかしいぞ、狼が人間を背中にのせて走っているぞ」とはやしたてました。馬泥棒がはっと気がつくと、小馬と思ったのは大きな狼です。 |
こら おおごとととばかりとびおりましたが、こんどは獣のおとしにすっぽり落ちてしまいました。 |
それでもよくまあ首もはさまないでうまく落ちましたので、馬泥棒は、やれやれえらいことになったと思案していますと、外では猿と狼がさかんにいいあっています。 |
「狼どん狼どん、何あわててるだ。お前の背中にのってたのは人間だが。」 |
「だあれえ、あれはふるやのもりという、この世で一番おっかねえもんだ。」 |
「いんや、たしかに人間だ、ちょっと待ってれ、おらがさぐってみる」 と、猿が長いしっぽをおとしの穴へたらしこみ、「人間いるか、人間いるか」とさぐりました。 |
馬泥棒は、「よし、あれにつかまってあがるべ」と、しっぽにいきなりとびつき、馬鹿力だして穴からはいあがろうとしました。 |
猿は悲鳴をあげて、
「いてててて、こりやおおごとだが、狼どん、狼どん、こらやっぱりふるやのもりにちがいね、 おらを穴ン中へひきずりこむが。」 |
狼はそれをきくなり一目散ににげだしました。 |
「おーい、待ってくれ、待ってくれ」と、猿は顔を真赤にしてうんうん逃げ出そうとしましたが、とうとうしっぽがぷつんと切れてしまいました。それから、猿のしっぽはみじかく、顔は真赤になりましたとさ。 |
おしまい。 |
|
|
■ 一読者の感想 |
|
悪いことをする人間は、自分が人に悪事を働こうとするが故に、自分も害されるのではないかと、いつも脅えているものです。そしてその脅えは、自分の中でどんどん膨らんでいきます。『古屋のもり』という得たいの知れないものを恐れた狼は、その典型でしょう。また悪者は、本当に自分が必要とするものを見極めずに、目先のものに囚われて、破滅へと疾走していきます。狼を馬と思い込み、その耳にしがみついた馬泥棒が、その例でしょう。 |
この昔話で面白いのは、じさまが、深い知恵があって『古屋のもり』という言葉を口走ったのか。それとも一般論として「古い家の守り神様」がいるからと話したのか。また猿の登場です。ちょっと気の毒な気がしますが、脇役として必要な役回りの猿に、その姿形の由来まで説明してしまいます。そこに昔の人の知恵と、物語全体をユ−モアでまとめあげる巧みを感じます。 |
まずは母親のやさしさです。息子が恥をかかないようにと、一生懸命に里の風習を教えます。そして何よりも、隣のあんにゃの、自分の恥をも省みないやさしさと機転です。隣の息子と同じ恥のふるまいを行なうことで、周囲の人たちを傷つけることなく、嫁を連れ帰ります。そして、里の人たちのやさしさです。自分たちと異なる山の風習を理解して、自分たちを反省し、若い夫婦の幸せのために嫁を山にもどします。 |
|
さて、皆さんはこの昔ばなしをどのように読んだでしょうか。それぞれの皆さんの思いで、それぞれ心に残るものを味わっていただければ、幸いです。 |
|
|